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看護師に対する緩和ケア教育(ELNEC-J)

現在は日本緩和医療学会において指導者研修会を実施しております

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1. 研究の背景

 2007年4月1日に「がん対策基本法」が施行され、国法に基づく「がん対策推進基本計画」の重点的に取り組む課題の中では、がん診療に携わる医療者の緩和ケアの重要性に対する認識が不十分であることが指摘され、緩和ケア教育の強化が求められている。また、中村は全国看護大学・看護短期大学・看護専修学校(3年課程)を対象に自らが行った「看護基礎教育における緩和ケア教育の実態調査」の結果、緩和ケアの授業を行っている学校は増加しているものの、学校間の教育内容、教材位置づけ、教育方法のばらつきが大きく、緩和ケア教育カリキュラムの構築が必要であること、緩和ケア教育を担当できる教員を養成すること、効果的授業方法の検討等の必要性を指摘している(中村, 2004)。
 看護継続教育におけるエンドオブライフケアや緩和ケアに関する教育は、各看護師のレベルに応じて多様な形態で行われてきた。我が国の緩和ケア看護領域のスペシャリストとして、緩和ケア認定看護師、がん性疼痛看護認定看護師、がん専門看護師らが過去約10年間で合計約500名誕生した。それら特定領域のスペシャリストを育成する教育体制は整備されており、より洗練されたプログラムに更新されている。ところが、新人やジェネラリストの能力開発を促進する緩和ケア教育に用いる教育プログラムの体系化と整備には、未だ様々な課題が残る。
 上記のような日本の緩和ケア教育の現状をふまえ、社会の変化やそれに伴う制度改革に呼応した医療看護サービスの効果的な提供を模索する中で、基礎看護教育・看護継続教育ともに、緩和ケアが適切に提供できるための人材育成としての教育方法の再検討は重要な課題である(二見, 2006)。また、各地域に根付いた緩和ケアが、治療の初期段階から行われるとともに、診断、治療、在宅医療など、様々な場面において切れ目なく実施されるには、それらの緩和ケアに携わる看護師に対するエンドオブライフケアや緩和ケア教育がキーポイントとなる。その際、その教育を地域単位で企画・運営し、それぞれの地域におけるエンドオブライフケア・緩和ケアの現状や課題を認識したうえで、体系化されたプログラムを展開することが最も効果的であると考えられ、その為には各地域でエンドオブライフケアや緩和ケア教育を適切な知識・技術・態度をもって提供できる指導者の養成が必要不可欠である。
 米国には、アメリカ看護大学協会(American Association of Colleges of Nursing: AACN)とCity of Hope National Medical Centerが、The Robert Wood Johnson Foundationと米国国立がん研究所(The National Cancer Institute)から助成を受けて作成した、エンドオブライフ看護教育協議会(ELNEC: End-of-Life Nursing Education Consortium)があり、終末期の医療に携わる看護師に必須とされる知識修得のための教育プログラムを提供している。ELNECの指導者養成プログラムにおいて提供されるテキストは、エンドオブライフケアに関する看護を網羅的、かつ効果的に教育できるツールとして欧米諸国で昨今注目を集めているだけでなく、看護教育に関する知識・技術も洗練されている。Ferrell らの報告によると、彼らの調査期間であった1年間に、全米で502名の教員がELNECを用いて460の異なった教育プログラムを実施し、エンドオブライフケアにまつわる看護教育の普及に尽力した。また、ELNEC指導者養成コースを受講した看護学校の教員らの報告によると、ELNEC指導者養成コースを受講したことにより、エンドオブライフケアに関する看護教育に費やす授業時間がコースを受講する前よりも平均で約10時間増加し、さらにその教育を受けた看護学生のエンドオブライフケアの実践能力も向上したことが明らかになった(Malloy et al., 2006)。
 ELNECは9つのモジュール(module:学習単位)(資料1)から構成され、それぞれのモジュールには詳細な指導方法や補助教材等の教育ツールが盛り込まれている。ELNEC指導者養成コースを受講し、指導者としての認定を得れば、すぐに教育が実践できるだけのツールが揃えられている。認定を得たELNEC指導者は、それぞれの現場における対象者に適切な教育方法や、教育の内容を慎重に選択し、効果的に教育を提供することが可能となる。
 National Cancer Instituteとthe Lance Armstrong Foundationの援助を得て開発されたEPEC-O(Education in Palliative and End-of-life Care- Oncology)は、わが国でも2005年に翻訳され、日本緩和医療学会主催のEPEC-Oトレーナーズ・ワークショップが、全国規模で開催されている。参加者はこのワークショップに参加することでエンドオブライフケアや緩和ケアを教育する技法を身につけ、自身が所属する施設や地域でEPEC-Oのセミナーを開催している。EPEC-Oの参加者の中には緩和ケア認定看護師をはじめとした認定看護師レベルの看護師や、がん看護専門看護師も存在するが、それらの看護師からは、看護師を対象にEPEC-Oの教育を実践するには、カリキュラムの内容がやや難しすぎるとの声が聞かれた。EPEC-Oのように体系化された教育プログラムで、その上、看護ケアにフォーカスを当てた教育プログラムの開発が多くの看護師から期待されている。
 そこで、本企画ではELNECの日本語版であるELNEC- J(ELNEC Japan)を開発し、国内におけるエンドオブライフケアや緩和ケアの看護指導者養成プログラムの実施により、緩和ケア看護教育の養成者を育成し、それぞれの医療機関における看護師へのエンドオブライフケアや緩和ケア看護に関する研修の機会を確保する。また、地域における緩和ケア看護教育の普及により、緩和ケア看護の均てん化をめざす。

ELNECの9つのModule

2. 研究の目的

 看護師に対する、ELNEC-Jを用いたエンドオブライフケアや緩和ケアにまつわる看護教育の指導者養成プログラムを開発・実践し、効果的な緩和ケア看護教育方法を検討する。

ELNEC 研究の目的

3. 研究の内容

1)対象者
(1) 認定看護師レベルの、病棟に勤務する看護師、各種医療機関における教育担当者、および看護管理者、看護基礎教育機関の講師
(2) (1)のうち、エンドオブライフケア・緩和ケアに関心がある者
(3) (1)(2)を満たし、各施設・地域においてELNEC-Jを用いた緩和ケアやエンドオブライフケアの教育指導や普及を実施する意思のある看護師
(4) ELNEC-Jを用いた緩和ケア看護教育と、質問紙調査の両方への参加に同意する看護師
2)ELNEC-J開発の方法
(1) ELNEC-Coreの翻訳および日本語版の開発(Acquadro, Jambon, Ellis, & Marquis, 1996)
(2) ELNEC-Jトレーニングプログラムの実施可能性を検証、およびプログラムの修正
(3) ELNEC-Jトレーニングプログラム実施による効果測定
 ELNEC-J トレーニングプログラムを実施し、プログラム受講前と、受講6カ月後で参加者が実施したエンドオブライフケア・緩和ケア教育に費やした時間や教育指導内容を集計する(ELNEC 12-Month Assesment Survey Follow Up:添付1の和訳作成中)。また、ELNEC-Jを受講したことにより、患者の擁護者としての役割をより発揮できるかどうかを評価し、プログラムの有効性を検討する(尺度開発中)。
3)ELNEC-Jトレーニングプログラムの内容
場所:大阪・東京近郊(各地域で計年2回)
参加者数:各地域において事前に定義した対象者約60名
講師:7名(+ファシリテーター7名)
事務:2名
4)本企画における著作権の配慮
 本企画で用いられたELNEC:End-of-Life Nursing Education Consortiumは、著作権者:アメリカ看護大学協会(American Association of Colleges of Nursing: AACN)とCity of Hope National Medical Centerにより、ELNEC-Jトレーニングプログラムへの著作の利用について承諾を得ている。
2008年 6月14日(土)
時間 スケジュール 形式 内容
09:00 - 09:30 受付   テキスト・資料の配布、アンケート調査
09:30 - 09:50 イントロダクション 全体 ELNEC-Jの紹介、プログラムの概要
09:50 - 10:30 Module1 全体講義 緩和医療における看護ケア
10:30 - 10:40 休憩    
10:40 - 11:00 Module3症状マネジメント 全体講義 症状マネジメントの原則
11:00 - 12:00 Module3
トレーニングセッション
グループ 事例を用いてアセスメント
12:00 - 13:00 昼食    
13:00 - 13:45 Module2 全体講義 「疼痛マネジメント」の講義を通してインタラクティブティーチングについて学びます
13:45 - 15:00 Module6 全体講義
グループ
コミュニケーション
ロールプレイ・グループ討論を通して患者・家族との効果的なコミュニケーションについて学びます
15:00 - 15:15 休憩    
15:15 - 16:00 Module7 全体講義 「喪失、悲嘆、死別」の講義を通してインタラクティブティーチングについて学びます
16:00 - 17:00 Module7
トレーニングセッション
グループ 傾聴エクササイズ・喪失エクササイズを通して、参加者主体の体験型教育法を学びます
17:10 - 18:00 教育 全体
グループ
効果的な教育方法、学習方法などについて学習し、翌日の「教育の実践」のセッションに向けて各グループで教育の計画・立案をします
18:00 - 19:30 夕食    

2008年6月15日(日)
時間 スケジュール 形式 内容
08:30 - 08:50 準備    
08:50 - 11:30 教育の実践 グループ グループ内で前日に計画した教育を実践し、お互いに評価します
11:30 - 12:30 昼食    
12:30 - 13:15 Module4 全体講義 エンドオブライフ期の倫理的ジレンマの講義を通し
てインタラクティブティーチングを学びます
13:15 - 14:10 Module8 & 9
トレーニングセッション
全体
グループ
ビデオ「ハービー安らかに」を視聴し、質の高い緩和ケアの実践や、臨死期のケアについて考えます
14:10 - 14:20 休憩    
14:20 - 14:50 Module8 & 9 全体講義 「質の高い緩和ケア」、「死への準備とケア」の講義を通してインタラクティブティーチングを学びます
14:50 - 15:30 目標設定 全体 事前に立てた目標をもとに、具体的な行動目標を立案します
15:30 - 15:50 まとめと評価 全体  
16:00 終了    

4. 研究の予想される効果

 本企画は、ELNEC-Jトレーニングプログラムを実施することにより、その効果を量的な方法を用いて明らかにするものである。我が国において現在まで、エンドオブライフケアや緩和ケア看護教育プログラムを用いた研究はなされておらず、本企画は望ましいエンドオブライフ・緩和ケア看護教育法の考察資料を提供するという意味において、我が国におけるエンドオブライフケアや緩和ケア看護教育の進歩、教育の対象となる看護師のエンドオブライフケア・緩和ケアの質の向上に貢献すると考えられる。

参考・引用文献

Acquadro, C., Jambon, B., Ellis, D., & Marquis, P. (1996). Language and Translation Issues. In Quality of Life and Pharmacoeconomics in Clinical Trials, 2nd ed. 575-585. Philadelphia: Lippincott-Raven Publishers.

American Association of Colleges of Nursing and the City of Hope National Medical Center. (2000). End-of-life nursing education consortium (ELNEC) course syllabus.

Malloy, P., Ferrell, B.R., Virani, R., Uman, G., Rhome, A., Whitlatch, B., & Bednash, G. (2006). Evaluation of end-of-life nursing education for continuing education and clinical staff development educators. Journal for Nurses in Staff Development, 22(1), 31-36.

中村鈴子. (2004). 看護基礎教育における緩和ケア教育の実態調査 全国看護大学・看護短期大学・看護専修学校(3年課程). 日本看護学教育学会誌, 14, 251.

二見典子. (2006). がん緩和医療教育の現状と課題 がん緩和医療における看護師教育の現状と課題. 緩和医療学, 8(1), 27-36.

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